【当会の所感】『第13回柔道整復療養費検討専門委員会』及び『第10回柔道整復師団体情報交換会』
平成30年1月31日に厚労省主催による柔道整復療養費専門検討委員会及び情報交換会が開かれました。
当会ではそのいずれも開始時刻より参加しましたので、ここに検討・討議・質問内容について如何なる議論・回答となったのかお伝えいたします。
※第18回鍼灸マッサージ 検討専門委員会に関する所感はコチラ
まずは『第13回柔道整復療養費検討専門委員会』(以下、柔整検討会とします)の【総評】から。
【総評】
検討課題全18項目中、主な議題となったものは、(以下、○数字については資料から引用)
②「亜急性」の文言の見直し
⑩施術管理者要件
⑪支給申請書における負傷原因の記載を1部位目
番号無し 白紙委任について
になります。これらの内具体的な進展があったものは、⑩のみであり、その他のものについてはただの議論で終わっており特に実りのない内容となりました。一方、これに先立って厚労省より発付された通知についてはいままで討議内容として挙がったことのない部分について、細やかな変更でありながら実はかなり重要な変更がなされたにもかかわらず、誰も触れることなく終了し、些か厚労省のやり口と委員の危機感の無さに危惧覚えるものとなりました。詳細については以下に記載します。
【詳細】
②「亜急性」の文言の見直し
②については、今まで通り保険者側が『「亜急性」をみとめない』、学識側が『「亜急性」の負傷は存在しない』との従来の主張があり、ただ一点、学識側から『「急性または亜急性の外傷」の部分を「急性期または亜急性期の外傷」としてはどうか』と何の役にも立たない提案があったのみで特に意見の変更等は見られませんでした。
一方、業界側からは、『閣議決定されている』事であるという従来通りの主張があり、若干の主張の変更として、『「医師の行う診察と我々の行う施療、同じく治療と施術」は言葉が違う以上、行為として別物であり、よってそれらに使用される区分についてそれぞれの立場からの定義の違いがあってしかるべきで、そもそも医療側の定義によらなければならない理由が無い』事、『それほど「亜急性」が問題なのであればいっそのこと、支給の範囲に関して「原因がはっきりした慢性に至らない(運動器に関する)外傷であって、内科的要因によらないもの」としたらどうか』という提案がありました。
業界側の意見の変更点については、当会が以前から主張・表明していることでもありますので、一歩前進程度の評価は可能ではないかと思われます(尚、この問題については、今までの当会の主張・意見のまとめの意味も込め、『適正な柔道整復療養費の支給範囲』の表題で別に文書を掲載しましたのでそちらもご覧ください)。しかし、一番問題なのは、保険者側の主張に対して、『では支給範囲についてどうすればいいのか具体的提案』を出す様な指摘も、『柔道整復における「急性」・「亜急性」とは何かの議論もなしに、単に文言を削除して良しとするのであれば、それは単なる抑制・削減であって、適正化ではない』程度の主張もなく、保険者側・学術側の主張に沿う形で、『整形外科の文書内に「亜急性」の負傷が存在している』という、相手方の主張を受ける形でしか議論・主張が出来ない、出席者の能力の不足です。
決着がついていない以上、次回以降もこの点に議論が及ぶものと思いますが、『閣議決定されている』だけで押し通したところで、論点がずれて収拾がつかない事から、今後については『論点』として、
・『急性』・『亜急性』という言葉の定義は、明らかに別物である医療側の『急性期』・『亜急性期』と同じでなければならないのか。
・定義を明らかにしたうえで、何処までが『適正』の範囲なのか。
・適性の範囲を明らかにしたうえで、『急性』・『亜急性』等の文言が本当にその範囲を明瞭化させるための手段となるのか。
これを提示しこれに沿って議論をするよう求めるべきだと思われます。
⑩施術管理者要件
⑩の施術管理者要件について、まず厚労省側の怠慢を指摘したいと思います。
そもそも当会は、この制度自体に何の意義も意味も見出せない事、単なる新規参入抑制であり嫌がらせ以外の何物でもない事、これをするのであれば先に対象とすべき者が存在し提案内容ではなんら実効性の無い事を以前から指摘・主張していますが、これを置いたとしても、厚労省原案における実施日時・要件等についてその不備を何度も指摘しております。しかし厚労省は、とっくの昔に『要件を満たす状況の構築が不可能である事』が分かっていたにも拘わらず、『既資格者に対する特例』を1/31という土壇場で表明する事態となっており、『怠慢』以外の評価が出来ません。
既に平成30年に開業を予定していた者の中には、この『既資格者に対する特例』が決まっていなかったが故に、予定より早期に退職し、開業計画の見直しを余儀なくされたものも存在します。また、これにより院経営が立ち行かなくなり支障を来した院も存在します。何度でも指摘しておきますが、この要件強化については、去年の春の段階で『翌年の4/1』に実施することが困難なのは予想できたことであり、厚労省が最初の通知を出した夏の時点において、記載された実施日付(4/1)では既資格者に対する『要件を満たす状況の構築が不可能である事』は明白だったはずです。にも拘らず、ここまで放置したことは『不作為の怠慢』以外の何物でもない事を指摘しておきます。
尚、この特例について解説すると、
・平成30年4月1日以降、新たに受領委任契約をしようとする既資格者(平成29年及びそれ以前に資格を取得している者)については、実務経験が1年以上(但し、その実務が受領委任契約をしている院に於けるものに限る)であれば、届出の日から1年以内に指定の研修を受講することを条件として、これを認める。
となりますので実質、整骨院に勤務していたものは、今までと特段の変更が無いまま、ということになります。しかし、この特例がついてなお、以下の点について早急に何かしらの対処・通知をしなければならない事を指摘しておきます。
・既資格者または限界事例に対する特例の何れであっても、契約後の条件が付されていることから、この条件を『正当な理由なく』満たせなかった場合、『受領委任の取扱い中止または中止相当』の処分は当然として、その処分は、処分された日から有効となるのか、遡って届出日から適用されるのか。遡らないとして、その場合既に処分日より前に施術が終了し請求された療養費の内、処分日以降支給の可否が決定されるものはどのように取り扱うのか。遡るとして、契約日以降受け取った療養費の返還はどうするのか。
・既資格者の内、平成30年4月1日以降に開業予定していた者でその開業時点において、免許登録の実務上の時間差や医療機関に就職したことにより実務経験が1年に満たない者はどうするのか
・限界事例について、特例を定めるのは致し方ないものとして、今年度資格取得した者のうち、一定期間実務を積んでから開業する予定で計画していた者について、実務経験のない者が特例により受領委任契約ができるのに対して、短いとはいえ実務経験を積んだ者が受領委任契約出来ない事についての整合性をどのようにとるのか
⑪支給申請書における負傷原因の記載を1部位目
⑪については、当会としては逆に業界側の委員に尋ねたいことが有ります。
『原因を1部位目から記載することに対して、それを回避すべき正当な理由』です。
②の議論に多少抵触しますが、支給『範囲』がどの様に決まったとしても、それが『範囲』である以上、その請求内容が『範囲』内に収まっているのかどうなのかは、請求上の必須項目だと思われます。よって、例えばその範囲が『通勤又は労務災害及び第三者行為以外の原因による外傷』と定められたのであれば、1部位だろうが5部位だろうが『通勤又は労務災害及び第三者行為以外の原因による』と記載すれば事足りるのだと思いますが、少なくとも現状においてこの範囲に設定されていません。良し悪しは別として、現状においては、『急性又は亜急性の外傷で内科的要因によらないもの』となっていますので、『これでは無い事』がわかる記載をすべきだと思われますが如何でしょうか。
委員の中に『記載することにより返って返戻の機会を失う』という発言がありましたが、到底理解できません。もし、疑義のある申請書を返戻した際に、原因が記載されていることを趣旨として反論された場合、それは『原因が記載されたから反論された』のではなく、その原因も読み込んだうえで、『何に疑義があるのか』明確に指摘できない、保険者・審査官の能力・技能・見識の不足にあるのだと思います。現状においても、現に審査会からの直接または審査会付箋のまま保険者の意見の無い返戻については、この『何に疑義があるのか明確ではない、或いはただの感想での返戻』が多発しており、当会としては困惑しきりです。特に協会千葉・協会宮城・秋田国保等、知識・見識・判断能力の欠如としか思えない審査会を有している保険者は非常に多いです。
審査会の権限強化を業界側・保険者側・学識側全て一致の要望として実施したのであれば、少なくともその担保となるべく能力・技能・見識の強化が先なのだと思われます。これを蔑にしたまま、『審査会の権限強化』を理由に、『原因を記載せずとも審査会の権限により正しい審査ができる』との主張は理解が出来ません。
白紙委任
その他として、電子請求等に関する言及はありましたが、特に議論の対処とはなりませんでした。番号が振られていないもので議論となったのは『白紙委任』についてです。
これについては、『白紙委任』についてよりも『施術毎の患者署名』の議論になっており、そもそもの方向性が定まっておりませんでした。ここで整理すると、まず『白紙委任』と『施術毎の患者署名』は別の問題であって切り分けるべき問題です。『白紙委任』問題は単に受領委任契約上における事務取り扱いに関する手続きの問題です。不正請求を防げるかどうかについてそれを目的にしていませんし、それに一切寄与しません。これに番号が振られていない(論点として挙げられていない)事、併せてこの委員会は『請求の適正化』を議論すべき場所であり、手続き上の諸問題を議論する場ではない事から、これについて議論すること自体が無駄なことです。どうしても『手続きの適正化』をしたいのであれば、現在の委任証明欄の文言を、『上記療養費を請求するとともに、その給付金の受領及びその請求に係る事務行為の一切を、請求内容が適正・適法であることを条件として委任する』とすれば済むことだと思われます。
従って、『請求の適正化』に対して『施術毎の患者署名』が有効なのかどうなのかをきちんと議論すべきだと思われます。これについての当会の見解は、『ただの嫌がらせで適正化に寄与しない』となります。先にお断りしておきますが、『手を負傷して等、疼痛を訴えている患者に無理強いするのは如何なものか』の様に、『足関節の捻挫等、それを強要したとして支障のない患者がいるので全員やらない理由にならない』と脊髄反射で反論されてしまうような理由で反対しているわけではありません。これを等しく義務として課した場合、支給申請書の他にこの署名をもらったものを請求までの間、汚損することなく保管する義務が生じ(支給申請書の裏にもらうという案があるが論外だとしか言えない。申請書を汚損する確率が跳ね上がる上に、何度も出し入れした日には、場合によっては印字に支障を来しかねない)、かつ請求後も証明書類であることからコピーの保管をせざるを得ず、とてもではないが手間において(事務に係る経費について、医療費と違い療養費の場合は考慮されていない)も、物量においても耐えられない。そして、不正をしようとする者は、例えば月の最初の来院日に請求しようとする日全てに予め署名もらう等、幾らでも『ごまかす手段』が存在することから、全く『不正請求を防ぐ』事に寄与しない。せめて、手間や保管に係る諸経費について、一定の加算があったうえで、多少でも『不正請求を防ぐ事に寄与』するのであれば賛成のしようもありますが、このままでは『不正をしていない者に対する一方的な嫌がらせ』でしかない上に『患者に手間をかけさせることによって受診を抑制させるための手段』にしかなっていないものと断じさせていただきます。
以上が柔整検討会に対する、当会の見解及び意見となります。
次に、『第10回柔道整復師団体情報交換会』(以下、『情報交換会』とします)についてです。
情報交換会
先ずは、全国柔道整復師連合会(以下、『全整連』とします)の役員の方々には御礼申し上げます。ここの所、この『情報交換会』を開催するたびに、厚労省側の担当者等、関係者の出席が充実の一途であることは、一重に関係各位のご尽力のおかげであることを感謝する次第です。
また、この文書をご覧の方には、ほんの少しでも興味があるのであれば、何処の会に所属している・していないに拘わらず、是非ともご参加くださいますようお願い申し上げます。
それでは、本題となります。
いつもの形式での議事進行となりましたので、重要な質問について下記に記載します。
・広告制限について。何時の時点でどのような内容になるのか
・大阪社団の発付している文書について
・生活保護の受給制限について
・研修について
となります。
広告制限
先ず広告制限については、その内容や実施時期等について質問がありましたが、これについては、『広告制限の改定に関する実施時期は未定で、現在、この規制に対する作業部会を『検討委員会』とは別に立ち上げ議論を始める予定なので、これが開かれるまでにおいては、その内容も全く未定』という、質問に対して全く回答の無いゼロ回答となりました。しかし、少なくともそのたたき台となるものは医療側で策定されている広告制限に関する『ガイドライン』であること、これが医療の広告制限に関する法改正に伴って策定されていることから、(ここからは単なる予想です。ご注意ください)当然、柔整(あはきも含め)の法の改正内容を決定し、それに伴い『ガイドライン』を策定されるものと予想しており、医療側の法改正においては、法律上の制限が緩くなる形になっていることから、柔整も同じく、法律上の規制は緩くして、ガイドラインで時節に合わせた規制を行う形になるものと予想しております。
尚、先にも記載したとおり、広告制限については今からの議論となりますので、皆様の意見が反映させることのできる状態です。広告制限について、何か意見がありましたら、当会又は全整連までメールでご意見いただければ幸いです。
大阪社団の文書
大阪社団については、当該団体が発付している文書の中に、あたかも『社団に所属していれば、その他の柔整師とは違い、指導や監査について有利な取り扱いを受けられる』様な記載があり、これをもって『会員になるよう誘因』する内容になっていることに対する指摘とこれを厚労省は承知しているのかという質問がありました。残念なのは、この質問者がすべきだったのは、厚労省に対して『審査会で特定の団体を有利に扱う事を容認しているのか』と質問し、出席していた社団関係者に『このような文書を配布することを社団が許可したのか』を質問すべきだったと思われます。結果として、厚労省の返答としては、そのような取り扱いのできる根拠となる規定は存在しない事、各団体が何をもって会員を誘因するのかまで意見する立場にない事(当然の回答ですが)を回答されてお仕舞になってしまいました。何にせよ、『大阪社団が文書に記載していることは、何の根拠もない戯言である』事、嘘までついて会員を誘因するのは如何なものか、という意見は表明させていただきます。
生活保護の受給制限
生活保護の受給制限については、何年どころか何十年も前から同じ問題が起こっており、何時になったら解決するのかと言わざるを得ない。『柔道整復を受ける前に、医師の診察が必要』というのは、繰り返し『通知』により否定されているにも拘らず、未だにこれを強弁に主張する福祉事務所が存在する。『甚だ疑問である』としか言いようがない。今回も、『そのような取り扱いとなっていない』と言質も取れておりますので、もし、この様な取り扱いをしている福祉事務所がありましたら、当会又は全整連までご一報ください。
管理施術者の研修
施術管理者の要件としての研修が、何時からどのような規模で何回行われるのかについて質問がありましたが、こちらも現時点で何も決まっていない事から具体的な回答はありませんでした。但し、見込みとして
・平成30年の夏~秋にかけて、第一回目を開催したい
・目標としては、年度末(平成31年3月31日)までに、全都道府県で開催済みとしたい(かなりの希望的観測)
・開催回数について地方は各県ごと最低一回、都市部では複数回としたい
・研修は有料で開催者の度量によるが、要望としては実費相当またはこれに限りなく近くなるよう要望(規制する気が無く、単なる要望なので多分相当の金額が設定されると思われます)
となります。但し当会として全てにおいてかなりできる事を前提として、楽観すぎる見込みだと思っており、担当者の力量に期待すること大であることを表明しておきます。
以上が『情報交換会』に関する内容となります。
注目されていないが重大な改定
最後となりますが、実はどちらにおいても、議論あるいは質問の対象とならなかったもので、密かに重大な改定が平成30年1月16日付『保発0116第1号』でなされています。それは何かというと、施術管理者の規定として、以前から
『第1章4(略)~施術管理者とすること。』
とされていた規定が、
『第1章4(略)~施術管理者とし、一人置くこと。』
と改定されました。
実に些細な変更であるのですが、それ故に『何故改定したのか』が問題となります。これについて、『検討委員会』で何かしらの不都合が報告され、議論の対処となっていたのであれば、改定されたとしても『何故改定したのか』は類推できますが、これについて議論されたことは一切ありません。つまり、全く改定点とされていなかった部分が改定されたわけで、余程の理由があるものと推察されます。
これについて、現状でどうなっているのかを整理すると、
・現況、整骨院においては休憩時間を抜いたとしても労働基準法で定められている、労働時間から想定できないほどの長時間営業や営業日で運営されている。
・労働基準法を前提とした場合、施術管理者が経営者でない限り、そのものが存在しない時間・曜日があると推測できる。
・施術管理者について、どの様な状態であれば施術管理者であると言えるのか明確な根拠が存在しない。
・近畿厚生局において、管理柔道整復師が『その時間いなかった』事を理由に、不正とされた実例が存在する。
・これを恐れ、複数管理を届出しようとしても、何の制限もなく、正当な理由が無いにもかかわらず、『そのような規定が存在しない事』を理由にその契約が受理されない
となっている。今回の改定については、つまりこの正当な理由ではない『そのような規定が存在しない事』を『受け付けない正当な理由とするための文言追加』となっていることになる。
うがった見方をすれば、今まであれば『その時間いなかった』事を理由にされたとしても、正当な理由なく『そのような規定が存在しない事』を理由に契約が受理されなかった主張が出来なくはなかったが、今回の改定により、『そもそもできない事をしている方が悪い』ことになるため、場合によっては、長時間営業・小休業による院に対して、権利の制限としてではなく、あくまで規定上の問題として規制をかけるための改定ではないかと推測できます。
少なくとも、多店舗経営等している開設者はこの規定に対する真意を問わないと、痛い目を見る可能性のあることをお伝えしておきます。
平成30年2月8日
安全保障柔道整復師会 顧問 西崎 斉