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お知らせ

2018/02/08

適正な柔道整復療養費の支給範囲

近年、『柔道整復療養費(以下、単に療養費とする)の適正化』を目的とした『柔道整復療養費専門検討委員会』(以下、委員会とする)において、療養費にまつわる諸問題について討議されている。

はじめに

その議題において、最大の問題点となっているものが『柔道整復療養費の支給範囲』についてである。
『適正化』を目的としている以上、その根本である『支給範囲』について討議することは、至極当然の事でありこれ自体には何ら問題は無い。しかしながら、委員会を傍聴していると、本質に係らない『言葉狩り』の様相を示しており、本来討議すべき『適正な支給範囲』の議論が全く行われていない。

この文書は、この現状に鑑みて『適正な支給範囲』とは何かについて、委員会での発言内容も踏まえ、あくまで私見であるが、解説・主張するために作成するものです。

柔道整復とは

さて、『適正な支給範囲』を議論するのであれば、最低限避けて通れないのは、『そもそも柔道整復とは何か』と言う事だ。柔道整復は『柔道整復師法』(以下、法とする)により、国家資格となっており、この柔道整復師と言う資格を有する者または医師以外にその施術が禁じられている施術である。では、その法に『柔道整復』とは何かという条文が存在するのかというと、関連と思われる条文のみを抜き出すと、

第二条 この法律において「柔道整復師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、柔道整復を業とする者をいう。
2 この法律において「施術所」とは、柔道整復師が柔道整復の業務を行なう場所をいう。
第一五条 医師である場合を除き、柔道整復師でなければ、業として柔道整復を行なつてはならない。
第一六条 柔道整復師は、外科手術を行ない、又は薬品を投与し、若しくはその指示をする等の行為をしてはならない。
第一七条 柔道整復師は、医師の同意を得た場合のほか、脱臼又は骨折の患部に施術をしてはならない。ただし、応急手当をする場合は、この限りでない。

と、禁止事項はあるが、その業務範囲において明確な条文は存在しない。従って法の上では、

観血的療法・薬物療法によらない施術全般を指し、同意のない脱臼・骨折に対する施術を除いて、何に対して施術をしても良い療法という事になる。
法が示す柔道整復はその範囲があまりに広く曖昧すぎでこれにより定義するのは不可能であることは自明という事になる。

では、他のアプローチを探ると、先ほど記載したように柔道整復は、法により医師を除き、柔道整復師の国家試験に合格しそれを指定機関に登録した者だけに許された療法なので、その試験内容、つまりはその出典となる柔道整復の教科書に行き着く。この教科書から少し乱暴になるが、趣旨だけ抜き出せば、柔道整復とは

『急性または亜急性の外傷に対する療法』

という事になる。尚、この定義上に存在する、『急性』及び『亜急性』については、それぞれ何を指すのかの定義も教科書上には明確に記載されているので、少なくともその範囲について一定の線引きは出来ている。

柔道整復という療法に対しての定義は、また他に存在するのかもしれないが、少なくともこれ以上に明確なかつ広範に知れ渡る定義は存在しない事は確かなので、以後はこれを『定義』として論じる。

ここで、定義は決まったとして、これはあくまで法上の『柔道整復師の業務範囲』に係る定義であって、健康保険における『療養費』として認めうる範囲であるかは別の話である。勿論、定義と全く同じ範囲を『支給範囲』としてもいいし、『支給範囲』として一切認めないとしても良いが、少なくとも何かしらを『支給範囲』とする際には、定義を何の理屈もなく超えるのはおかしいことになる。

支給範囲

では、支給範囲は何によって規定されるべきなのかというと、気分やら懐具合とやらではなく(全く無視していいわけではないが)、まずは法律がある以上、これに根拠を求めるべきである。よって、まずは前提として健康保険法(以下、保険法とする)から関連する部分を抜粋する。

第一条 この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)第七条第一項第一号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
第二条 健康保険制度については、これが医療保険制度の基本をなすものであることにかんがみ、高齢化の進展、疾病構造の変化、社会経済情勢の変化等に対応し、その他の医療保険制度及び後期高齢者医療制度並びにこれらに密接に関連する制度と併せてその在り方に関して常に検討が加えられ、その結果に基づき、医療保険の運営の効率化、給付の内容及び費用の負担の適正化並びに国民が受ける医療の質の向上を総合的に図りつつ、実施されなければならない。
第八十七条 保険者は、療養の給付若しくは入院時食事療養費、入院時生活療養費若しくは保険外併用療養費の支給(以下この項において「療養の給付等」という。)を行うことが困難であると認めるとき、又は被保険者が保険医療機関等以外の病院、診療所、薬局その他の者から診療、薬剤の支給若しくは手当を受けた場合において、保険者がやむを得ないものと認めるときは、療養の給付等に代えて、療養費を支給することができる。

以上となるが、日本に於ける公的医療保険は、これの他に『国民健康保険法』・『船員保険法』等(以下、保険法の施行規則・施行令及び前記の法律及びその施行規則・施行令を全て含めて関係法規とする)により、『生活保護法』に規定される者を除く、『国民皆保険制度』であり『強制』であることも併せて前提とする。

まず、『療養費』は保険法第八十七条(関係法規にも同様の規定は存在する)にある通り、『被保険者が保険医療機関等以外の者から診療、薬剤の支給若しくは手当を受けた場合において、保険者がやむを得ないものと認め』た場合に支給されるとある。従って、保険者が『やむを得ない』と認めれば、支給の範囲について保険法第八十七条に規定はない。しかし、これは法律の条文である以上、その法律の趣旨は超えられないのは自明で、その趣旨は保険法第一条として規定されているので、正確には、

『国民の生活の安定と福祉の向上に寄与している、やむを得ないと認める』

範囲のものという事になる。

しかしながら、ここで気になるのが委員会に置いて一部委員からこの『やむを得ない』をもって、『保険者がその意思で認めないものは対象としない』ことが裁量の範囲であるかのように、万能感をもって誤解した発言している者が見受けられることである。法律の根本で行けば、この制度が強制(その内容を理解し承諾して任意に契約しているのではない)であり、対象者は『保険料を納める』事により、その義務を果たしている者であることから、その対価として保険法第一条を超えない範囲でその保険を使う権利は認められるべきだし、更にその前提があった上での、『やむを得ない』のであって、『保険者の意思だけ』を理由に裁量していいものではない。
あくまでも、状況等により『やむを得ない』と認められる範囲のものについて裁量するのは裁量権の踰越であり、その状況等には保険法第一条を超えない範囲での『選択の権利』が認められてしかるべきである。

本題に戻るが、上記から柔道整復は、

・柔道整復が他の民間療法とは違い、国家資格として制定されていることから、国民のコンセンサスとして『療法』として公的にその効果が認められている事
・その効果が定義から関係法規も含め『国民の生活の安定と福祉の向上に寄与している』事が自明である事

から、(受領委任契約等の関係法規に規定があるものに寄るか寄らないかに関係なく)療養費として認められるべきものであると言える。また、その認められる範囲は、定義が保険法第一条を超えていない事及び保険法に特にこれ以上の規定がないことから、定義が最大に認められる範囲という事になる。

ここまでを一旦まとめると、保険法第八十七条に則って、被保険者が規定通り償還払いとして療養費を請求した場合、

『急性または亜急性の外傷に対する柔道整復術』・・・※

は、支給範囲であると言える。

急性と亜急性

さて、ここでこれまた一部の委員が問題としているのは、『急性または亜急性の外傷』とは何かである。そもそも、自分たちの知識・見識不足を盾に何の理屈も存在しない、主張であり、疑問だとしか言いようがない。まず、柔道整復における『急性』『亜急性』とは何かについて、教科書上では、

『「損傷時の力は急性と亜急性に分類できる」「急性とは原因と結果の間にはっきりとした直接的関係が存在するもので、落下、直接の打撃、骨・関節・軟部組織に加えられた瞬発的な力によって発生する」「亜急性は反復あるいは持続される力によって、はっきりとした原因が自覚できないにも関わらず損傷が発生する。このなかには、臨床症状が突然発生するものと、徐々に出現してくるものがある。」』

となっているので、簡潔にまとめると、

『急性とは瞬発的な力によって発生する原因と結果の間にはっきりとした直接的関係が存在するもの』
『亜急性は反復あるいは持続される力によって発生する損傷』

となる。ここで委員の発言は、

『急性・亜急性とは急性期・亜急性期を指す言葉であって、発症してからの時間経過を示すもの』

となるが、根本的に何を主張しているのか不明である。ここに記載したように、まず、急性・亜急性に対する定義は上記の通りはっきりとしている。
この言葉にそれぞれ『期』をつければ、それは『期』がついた別な言葉であって、そもそも論点にならない。これが通じるのであれば、『「味噌」とは「味噌汁」を指すので、汁になっていない、固形状の「味噌」など存在しない』と主張しているのと同じであって、こういうのを『くそと味噌が一緒』と言うのだと思われる。

もし、これについて主張したいのであれば、

『「反復あるいは持続される力によって発生する損傷」など存在しないので、亜急性なる外傷は存在しない』

とするべきである。しかし、これを主張は出来ないだろう。何故なら、『疲労性骨折』だけみても『亜急性』の外傷は存在するからだ。

一方、そもそも言葉の定義を医療側に寄せるべきで柔道整復だけの定義を認めない主張もあるが、この世において医師が絶対者であり無謬であるなら一理無くはないが、少なくとも医師が観血的療法にも薬物療法にも頼らず、手技により外傷を治療した等は聞いたことが無い。同じ外傷に対してであったとしても、その回復手段において手法が違う以上、それぞれの立場において有用な区分を設けることは別におかしい事ではない。

よって、『期』がつくとか、つかないとかは単なる『言葉狩り』であって意味をなさない

受領委任契約

では、議論はこれで終わりなのか。当然答えは『否』という事になる。何故なら、この委員会で討議されているのは、『受領委任契約上の支給の範囲の適正化』だからだ。

まず、前提として『受領委任契約』は法律で定められた契約や制度ではないため、法律上存在しない制約があったとしても特に問題とはならない。但し、関係法規に存在するものに対しての契約である以上、関係法規の趣旨に反するのはおかしい。これを前提に論じると、まず先程確認したように、関係法規から導き出される支給範囲はで終わっているので、このままで良いのかを検討する。

被保険者は、償還払いとするのか、委任払いとするのかについて制約を受けない(制約する条文が存在しない)ので、契約という行為によって制約が生じる受領委任に関して、その制約に不服であれば、患者自身が償還払いによる請求(個別具体的な判断を求める事)すれば良いので、受領委任契約上に患者に不利な制約があったとして、患者の権利を完全に阻害している事にはならない。一方、請求される保険者側としては、患者自身ができる事を態々別の方法でするのであれば、患者の『治療の選択権』を阻害しない範囲で、保険者側の支払業務に一定の軽減効果のあるような『決まり』はないと意味が無い。施術者側も一々、個別具体的な判断をされて、支払いに猶予ができたり、過大な説明を求められたりであれば契約する意味も委任を受ける意味も無い。

上記から、まず『契約』とするのであれば、保険者が支払いにおいて、なるべく個別具体的な検討の必要の無い内容で請求され、当然その費用に関してそれだけの効果が認められるものであれば、保険者側の事務の軽減効果が大きく、施術者としては懸念の減少が得られ、患者は受けることによる制度上の保証が得られることとなる。

適正といえる療養費の支給範囲

では、それはどのような制約なのかというと、柔道整復の施術の範囲はであるが、この中には、かなり個別具体的な検討が必要な、つまり『対費用効果』について検討しなければならないものが含まれる。これでは、意味が無いのは前述の通りなので、内容を分けてなるべく個別具体的な検討が必要の無いものにする必要がある。

まずは、症状が出た原因による峻別がある。運動しなくてもいたいとか、歩くだけでも痛いという症状は、『変形性の膝関節』等、※の定義にそぐわないものでもでる。これと一般的な外傷は何が違うのか。『関節・骨・軟部組織等に外力が加わったことの分かる原因が存在するのかしないのか』は重要な観点であろう。

また、胆石による右肩への放散痛や通風による炎症等、(原因ははっきりしているが)当然手技では根本的な解決の望めない内科的要因による症状も存在するので、これは完全に除外すべきだろう。

ついで、(これまた原因ははっきりしているが)習慣性の脱臼・繰り返し起こす腱の断裂等(以下、慢性の負傷とする)の初回の固定処置は兎も角、根本的な治療法として、筋力訓練等の別な手段の方が効果的であるものも、やはり個別事案となるため除外したほうが無難であろう。

最後に、発症後一定期間がたったがために、組織が瘢痕化したものや脳血管障害等により麻痺を起こしたことによる筋の硬直等(以下、陳旧性の負傷とする)も、やはり個別事案となるため除外したほうが無難であろう。

また、上記の内、慢性の負傷と陳旧性の負傷については、『医師による同意』等を求めれば、保険者による初期段階での個別的検討は基本的に必要なくなるため、その効果を確認することを条件に認めても良いのではないかと思われる。

結論として、『柔道整復療養費の支給範囲』は、

『原因のはっきりした、陳旧性ではなくかつ慢性に至らない、内科的要因によらない運動器の外傷。但し、陳旧性及び慢性の運動器の外傷に関しては、医師の同意と別紙による経過報告を条件として支給する』

とすることが最良だと主張する。

尚、厚労省案の『負傷の原因が明らかで身体の組織の損傷の状態が慢性に至っていない、急性又は亜急性の外傷性の骨折・脱臼・打撲及び捻挫であり、内科的原因による疾患は含まれないこと』は、『陳旧性の外傷』に対する施術をどうするのか不足しているものと思われる。

安全保障柔道整復師会

顧問 西崎 斉

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