あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等の広告に関する検討会について【西崎 斉】
平成30年5月10日、厚生労働省9階省議室にて表題にかかる検討会が公開の上開催されました。この委員会について、当会の意見・評価・提言を行うため、この文書を作成いたしました。
まず、論点を整理するため、この委員会の主旨等を厚労省提示の資料から抜粋しつつ説明いたします。
最初に議題として提起されているものは
1.あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等の広告の現状と課題について
2.その他
となっております。尚、議題に『その他』が何の注釈も無く入っている時点でこの委員会について、幾ばくかの疑念を生じたことを表明いたします。さて、疑念はともかくとしてこのままでは、何処まで議論が広がるのか見当もつかなくなりますので、その他資料からこの『その他』が何をさすのか推測すると『無資格類似業者の広告のあり方について』であると読み取れます。また、同様に資料から読み取れること、また今回の委員会内の各委員の発言等も考慮して、上記に合わせて分かりやすく整理すると、今委員会の議題は、
1.あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等(以下、国家資格者とします)の広告の現状の整理
2.上記に伴い抽出される問題点
3.上記踏まえたうえでの、社会情勢等も考慮した上での規制案の提示
4.規制案の法的正当性を担保しつつ、成文化し正文化
5.国家資格者に対する規制が正文化された上で、無資格類似業者(以下、無資格者とします)に対する規制案を提示
6.無資格者に対する規制案を法的正当性の担保をしつつ、成文化し正文化
になるものと推測いたしました。
上記の議題について提示されたスケジュール案をみると、
第1回 平成30年5月10日
○検討会の開催について
○広告に関する現状と課題について
第2回第3回
○ガイドラインの作成について(1~2か月に一度開催し、論点について議論)
第4回第5回
○広告可能事項の見直しについて(1~2か月に一度開催し、論点について議論)
第6回 平成30年末目処
○ 広告可能事項の見直し案、ガイドライン案とりまとめ
平成31年度施行
平成32年度より取締強化(周知期間:1年程度)
と、全6回にて取りまとめることとなっているようです。
素直な感想としては、既に委員会内で指摘されていますが『(絶対)無理』だと思われます。そもそもこのスケジュール案になっているのは、一定線議論に枷を嵌めた状態で進めることを前提としているものと思われます。がしかし、『事務局』側の不手際により、結果として『間に合わない』状況となったもの判断します。これについては、後述します。
さて、整理のついたところで、今委員会についての評価を先にしたいと思います。評価は唯一つ、
『事務局側の準備・知識・見識・理解の不足が際立った委員会』
としか、評価の出来ない内容でした。
委員の選定について
中立的第三者や学識経験・法曹関係者等、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師の各法(以下、前提法とします。)に見識の無い素人が入るのは、策定された規制案の公平性を担保するために必要な人材であることは事実なので、これについては問題ないものと思われます。よって、出席者の内、(以下、敬称略となります。また、肩書きについては資料の通りとなります。)
磯部 哲 慶應義塾大学法科大学院教授
木川 和広 アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士
坂本 歩 公益社団法人東洋療法学校協会 会長
福島 統 公益財団法人柔道整復研修試験財団 代表理事
前田 和彦 九州保健福祉大学 教授
山口 育子 認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長
については正当だと思われます。また、当然前提法に規制される国家資格者が議論に参画しないことはあり得ない話なので、
石川 英樹 公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会 業務執行理事(法制局長)
竹下 義樹 社会福祉法人日本盲人会連合 会長
三橋 裕之 公益社団法人日本柔道整復師会 理事
南 治成 公益社団法人日本鍼灸師会 副会長
は、それぞれの資質はともかく、資格・数としてバランスが取れているものと思われます。さて、これ以外の人選として、
加護 剛 奈良県橿原市健康部 副部長
釜萢 敏 公益社団法人日本医師会 常任理事
三宅 泰介 健康保険組合連合会 医療部長
となっています。さて、橿原市健康部がどのような組織なのかはホームページを見ても判然としない(得られる情報からすると保険者側に立つものだと思うが)ため、いい方に解釈して『保健所』を統括する部署だとすれば、規制を掛ける実行者側となるため、この委員については、必要と判断できますが、問題なのは、残りの二者です。
利害関係人と全く関係が無い上に学識ですらない者の二者がいることは、議論をただひたすらに冗長させる原因にしかならず、全く理解が出来ないです。そもそも、前提法における広告規制について議論すべき委員会である以上、まず規制される側とこの規制により利益・不利益を被る側(利用者・患者)、そしてその規制を実行する側の三者構成とした上で、その正当性を学識側が担保すると言う四者構成にすべきであって、前提法に一切係りの無い利害の対立する医師や、療養費という別法で議論すべき関係人が含まれていることは、根本としておかしいものだと思われます。基本的なこととして、利害関係人が全うな意見を言うはずがないことは容易に想像できること(尚、念のため記載しておきますが、ここに記載しているのはあくまで委員の肩書きから推測する一般論であり、今回の委員会における医師側委員の発言は十分に節度持ったものであったことは事実です。)、療養費についてはそれを選択する選択しないが任意である以上、これを前提として規制をすることは、療養費を選択しない者に無用な規制を掛けることになり、前提法により免許されたされた者に対して、無用の権利侵害に他ならないものと考えます。
さて、委員の選定ですらこの状態ではありますが、更に失望を禁じえないのは、いざ始まってからの議事進行がぐだぐだに過ぎたことです。本来、何かについて議論する場合、議論の方向性によっては、決着のつかない泥沼になることは珍しくありません。その方向性自体が議論の根本にかかわる場合、致し方のないことであり避けて通ることは出来ませんが、場合によってはその泥沼が議論の本質に関係の無い、避けて通るべきものであることもあります。さて、今委員会の議題に当てはめた場合、前提法における広告制限は、類似業務である医師法からの転用であることは前提であり、また、資料に記載のあるとおり『医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告について見直しが行われたこと等を踏まえ、国民に対するあはき柔整等の情報提供内容のあり方について検討を行う』事を目的と設定していることから、検討を行った結果のその内容が、受益者(利用者・患者)の不利・不利益にならないようにすることを前提として議論をすれば、泥沼に陥る要素は存在しないこと、また誰かに対して有利に偏向した方向性でないことは明白であるものと思われます。
にもかかわらず、事務局側がろくに説明をしないまま、議長選出に移行し、更にその議長にも『ご議論いただく論点』の説明をしなかった結果として、資料の後ろに添付されていた『ご議論いただく論点』を議長が完全に無視して、『フリーセッション』を始めてしまい、結果として事情を知らない『素人』が『医業なのかそうではないのか』の泥沼の討議を始めてしまい、挙句には『治療という言葉で医師だと勘違いして施術受けた利用者』がいるなどという、今時早々あり得ないレアケースを開陳した挙句、印象操作に出る者までいる始末になり、果ては、どさくさにまぎれて全く前提法に関係の無い『療養費』に関わる制限を求める者(これは法とは別に受領委任契約の中で、契約事項として制限すればすむことであり、法で規制することに全く正当性は無い)が出るなど、『カオス』と表現する以外に無い状態となってしまいました。因みに、『ご議論いただく論点』について全員が理解できる状態(フリーセッションに入る前に、お馴染みの『事務局側』からの説明があったのですが、これが事の軽重に関係なくすっ飛ばして読み上げた挙句、傍聴人から『はっきり読み上げろ』と野次られるぐらいに不明瞭であったため、そもそも何を言っているのか誰も理解できないと確信できるほどにひどかったため、この文言をつけました)で言及が及んだのは、カオス状態を極めた結果、予定終了時刻を過ぎた後に事務局側の別の人物からの指摘よるものであったことを明言しておきます。(議長が認識したのも多分この時点だと思われます)
上記のように、委員の選定に正当性が無い上に、発言者によっては既に印象操作に走っているもの、全く論点ではない別法の制度を持ち出すもの等、混乱以外に無いものとなっており、これを6回でまとめるのは『無理』なのは明白です。更に、業界側の委員も『無資格者』に対する規制に対してのみ思考が振られているため、このままで行くと今以上に『おかしい規制案』にしかならないことがほぼ確定しております。
よって、我々は以下の通り提案いたします。
提案
① 広告制限はあくまで前提法における制限項目であることから、これのみを前提として議論すべきであり、他法に規定・規制されるべきものについて議論しない。
② 『無資格者』に対する規定も、前提法には存在しないことから、そもそもの議題に合致しない。なにより①の規制方法に配慮すれば、議論をせずとも規制が可能。よってこれについて議論しない。
③ 患者の利益になること(または利益が多いもの)については積極的に開放し、不利益になること(または不利益が多いもの)を規制し、相半ばになるものについては、虚偽・誇大を規制しつつ正当な競争を促すためこれを開放することを前提として議論する。
をルールとすることを提案いたします。
更に、規制案を組み立てるにおいて一つずつ検討していたのでは、いくら時間があっても足りないため、
Ⅰ 前提法に規定される各国家資格者に共通させることのできる開放・禁止すべき基底案を策定する。
Ⅱ 各国家資格ごとに開放すべき部分を策定したうえで、これをその資格者のみの専用とする。
Ⅲ 各国家資格ごとに禁止すべき部分を策定する。
とすべきと考えます。
以上を前提として、当会として以下の素案を提示します。
【当会素案】
Ⅰ
[共通項目・許可]
1 施術所名、施術者名、開設者名
2 施術所住所、施術所電話番号、FAX番号、施術者電話番号、その他患者が連絡を取るために必要な連絡先
3 ホームページアドレス、メールアドレス等、患者がその施術所の情報を取得する為のインターネット等におけるアドレス表記
4 駐車場、駐輪場、バスの停留所等交通手段に係る表記、施術所周辺の地図等による表記
5 営業時間または受付時間の表記、営業日及び休業日の表記、時間外及び往療の受付の有無
6 施術者の国家資格取得日、施術者及びその他の施術所勤務者に関する勤務状況及び顔写真等の情報の記載
7 施術に関する無料相談の実施に関する表記、公的保険・労災等における取扱いの有無に関する表記
8 施術に使用する機器の表示
9 その他患者の理解を高めるためにする表記でⅠ及びⅡにおける制限事項及び禁止事項に触れないもの、また虚偽または誇大な表記ではないもの
[共通項目・制限]
1 許可項目1の施術所名については業務の種類が明確になることを必須とする。また、その表記についてはⅡに規定する。
2 許可項目6の国家資格取得日を表記する場合は、各国家資格種別とそれ資格に係る施術所(柔道整復師であれば柔道整復施術所等、病院等他の医療機関は不可)における実務経験の期間も併記する。また、具体的な経歴や施術所に係りの無い資格の表記(○○学校卒、○○施術所勤務、医学博士等)の記載は不可。
3 許可項目6の施術者及びその他の施術所勤務者に関する表記は、施術者及びその他の施術所勤務者の同意があるものに限る。
4 許可項目7の無料相談の実施に関する表記については、何についての相談を受けるのか明記する事。但し、各国家資格の業務範囲を超えるもの、他の国家資格と誤認させるものは不可。また、相談に必要の無い項目(相談者の氏名・住所・連絡先等)の取得をしない事の表明と実際に取得しない事
5 許可項目7の取扱いを有りとした際の表記については、その取扱いに制限のある場合にはその内容を併記する事(各種健康保険取扱と記載した場合には、柔道整復であれば『慢性に至らない内科的要因によらない外傷である』旨、『骨折・脱臼は医師の同意が必要である』旨)
6 許可項目7の取扱いを有りとした際の表記について、『専門』であることを記載する場合には、実際にそれ以外のものについて取り扱わない事を条件とする。
7 許可項目8の機器の表示については、製品名・型番・外観に限る。具体的な効能等の表記は不可
[共通項目・禁止]
1 他の国家資格者を想起させるような表記(医院・診察・診療等)。但し、問診・視診・触診・聴診・舌診等診察に係る具体的な方法等については許可
2 前提法を超える業務範囲の表示
Ⅱ
[柔道整復専用・許可]
1 取り扱う外傷の種類、柔道整復師法の業務範囲を超えない範囲での施術内容
2 施術所名において業務の種別の表記として、せいこつ(院)、せっこつ(院)、ほねつぎ(院)及びこれらの漢字表記
[柔道整復専用・制限]
1 柔道整復専用・許可の1については、柔道整復師法の業務範囲を超えない事。また、許可項目7の取扱いを有りとした場合には、その取扱いに関する契約・規則の表記規定に抵触しない事
[柔道整復専用・禁止]
1 許可項目全てについて、他方で許可されている場合を除き柔道整復施術所以外での表記は認めない
[はり・きゅう専用・許可]
1 施術所名において業務の種別の表記として、はりきゅう(院)、はり(院)、きゅう(院)、やいと(院)及びこれらの漢字表記
2 慢性疾患にかかわる病名の表記、小児針等施術方法の提示
[はり・きゅう専用・制限]
1 病名の表記については、基本的に運動器系疾患・神経系疾患等の疾患とし、癌等生命にかかわる重大な疾患ではない事、ウィルス・細菌等他生物による疾患ではない事、精神性の疾患ではない事を条件とする。
[はり・きゅう専用・禁止]
1 許可項目全てについて、他方で許可されている場合を除きはり・きゅう施術所以外での表記は認めない。
[あんま・指圧・マッサージ専用・許可]
1 あんま、しあつ、マッサージ、もみほぐし、もみりょうじ、ほぐし
2 慢性疾患にかかわる病名の表記、揉捏法等施術方法の提示
3 施術所名において業務の種別の表記として、1記載のそれぞれの単独表記または複数の連結表記とその後ろに院と付記する事及びこれらの漢字表記
[あんま・指圧・マッサージ専用・制限]
1 病名の表記については、基本的に運動器系疾患・神経系疾患等の疾患とし、癌等生命にかかわる重大な疾患ではない事、ウィルス・細菌等他生物による疾患ではない事、精神性の疾患ではない事を条件とする。
[あんま・指圧・マッサージ専用・禁止]
1 許可項目全てについて、他方で許可されている場合を除きあんま・指圧・マッサージ施術所以外での表記は認めない。
以上、素案の提示となります。
尚、上記は素案ですので、当然足りない項目があるとう不備があることは前提となりますので、ご承知おきください。
安全保障柔道整復師会
顧問 西崎 斉