【西崎コラム 】平成29年6月26日付保医発0626第3号及び事務連絡について
平成29年6月26日付けにて
保医発0626第3号『「はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の支給の留意事項等について」の一部改正について』(以下、単に通知とする)と事務連絡
『はり、きゅう及びあん摩・マッサージの施術に係る療養費の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について』(以下、Q&Aとする)について、当会の見解を記載する。
1.支給申請書の取扱いに関する変更について
今回通知により、支給申請書を施術者ごとではなく、施術院単位にて取り扱う事と変更された。これについては、当会としては何ら異議を唱えるものではなく、むしろ遅すぎる改定であったと認識している。
そもそも、当会では施術者ごとでなければ申請を認めない一部保険者に対して、施術所単位の申請を認めるよう働きかけをしてきた経緯がある。
支給申請書審査上の事を考えれば、施術者ごとにはデメリットしかなく、なんらメリットが存在しない事が理由としてある。一例をあげれば、来院した患者の施術日を例えばレセコン等に入力するときに、施術した者以外の施術者に対して登録するミスは人間が行う以上避けられないミスであり、これをチェックする為には、同一患者の申請書を並べたうえでチェックしないと見つけられない。
これに往療までからむともはやパズルであり見つけること自体が困難な場合もある。勿論、ミスする側が悪いのは当然であるが、容易にミスを見つける事が出来ないような組み立てを放置している方にも十分すぎる責任があるのであり、この点について、当会は保険者に対してそのメリット・デメリットを解説しながら『施術所単位』を認めてもらうよう交渉してきた。
よって、当会としてはこの改定について、何ら文句は無いという事になる。
しかしながら、この取り扱いについてのQ&A上に疑義がある。この文書において『(問 1)』と『(問 5)』が両立しない回答となっている。まず、厚生労働省が鍼灸及びマッサージの療養費支給申請書の原案においては『施術証明欄』において、『上記の通り施術を行い、その費用を領収しました』と記載されている。
つまり、施術の証明と領収した事実の証明は同一の者が行うことになっているが、Q&A『(問 1)』において、領収した事実の証明については施術所の代表者となっていて、『(問 5)』では中心的に施術を行った施術者となっている。施術所の代表者が施術者を指導管理する立場にあった場合、大概において中心的に施術を行うことが無いことから、Q&Aで疑問が発生している。
過去から厚生労働省のだす疑義解釈文書においては、柔道整復も含めればこのようにいらぬ疑義を提示することが多い。せめて通知を出すのであれば、業務に精通したものに意見を聴取するぐらいの事はしたほうが良いのではないかと思う次第である。ともあれ、『(問 6)』にて、施術した施術者を日毎に記載するよう求めていることから、施術した事実を誰に確認すればいいのか明確であり、このことから『(問 1)』の回答で解決する問題であるものと思われる。
尚、労働者保護・税務上の観点からいっても、この欄については、『各施術者から施術した事実の証明』を取ることを条件に、『開設者または施術者を代表する責任者(資格の有無を問わない)』が証明すべきと思われる。
2.1年以上・月16回以上施術継続理由・状態記入書について
まず、はり師、きゅう師、あん摩・マッサージ・指圧師に肝に銘じて頂きたいことがある。
通知に関するセミナーの際に、現に施術を行っている施術者にかなり反発された項目(当会のセミナーで反発されても如何ともしがたいものではあるが、ここでしかぶつけるところが無かったとすれば理解はできる)であるが、この項目に対して前提となる考え方が間違っている。
いわく『施術回数の上限を取り払ったのに、また制限をかけるのはおかしい。』、『1年以上において、16回以上施術が必要な患者はいるのに』等々は、根本的な部分で間違っている。
本来、療養費は医療の補完であるので、当然療養費はその患者の状態により必要の範囲で支給されるべきものなのは前提である。従って、患者の状態の確認なしに『上限』が決まっていたこと自体が法に反していたのであって、『上限撤廃』は法の根本に服したのであって、施術者側の権利獲得ではない(実際どういう経緯で決まったのかは考慮する必要が無い)。
更に『1年以上において、16回以上施術(以下、この条件を長期頻回という)』がダメだとは誰も言っていない。
健康保険は理念として、相互扶助を基本としており、被保険者の立場が一方的に強いわけではなく、一定の制限がかかるものである。
これに伴い現在問題となっているのは、『1年以上において、16回以上施術』がどの程度、対費用効果を出しているのかという事である。
今回の通知は、この問題に対してどの様な疾患(或いは症状・状態。以下同じ)であれば長期頻回になるのかや、どの様な疾患に対してその施術の効果を認めて支給範囲(つまり、必要の範囲とするのか)とするのかを見極めるためである事を建前として、後で記載するが受領委任契約制度を確立する為の手順であり、データ収集が目的であることは明記されている。
よって、その制度が確立した時にこの収集したデータをもとに支給の範囲が決められる大事なものであることを十分に認識していただくとともに、現時点において、何かしらの制限をかけることを目的としていないので文句をつけたところでどうにかなるものではない事も合わせて認識していただきたい。
そして、ここで当会の見解を記載すると、過去において当会としてはっきりと記載しているが、『受領委任制度』そのものについて、反対であり、これを急ぎ確定させんがための今回の様な通知の出し方に対しては断固として異議を唱えるのである。しかしながら、『支給の範囲を見極めるためのデータの収集』を純粋にその目的だけでするのであれば、むしろ賛成である旨も合わせて表明する。
今回のこの通知は、事前にこの様な通知が出る事が全く予想されておらず、しかも通知されたのが施行日の数日前という、かなり出鱈目な発出のされかたをされていて、しかもその目的が請求業務に対する大した知識のない『学術団体』(専門検討委員会の発言をみれば、業界側の委員に請求行に対する知識、見識が無いことは明らか)が、業界全体の総意を偽装して要望している『受領委任制度』の確立のための一手順とあっては、到底受け入れられるものではない。
が、一方で、現在の鍼灸マッサージの療養については、『保険者の裁量』があまりに大きく、一体何を基準に請求すれば支払ってもらえるのか薄氷を踏む思いをさせられていることから、単に『制限』をすること目的とするのではなく、『必要な範囲』を厚生労働省が設定することは、我々以上に、最終的な支払者である患者にとって必要なことだと思っている。
よって、これだけを目的にするのであれば、当会としては何ら異議の無い所である。
尚、この通知が受領委任契約制度を確立する為の手順であることについては、当会のホームページ上に各種通知や専門検討委員会資料等をアップしているのでそちらを参照ください。
最後に、今回のこの用紙について手を抜いた記載の結果として、例えば提出したもの全てが、提出された期間全てにおいて『2.維持』だったりした場合は、結果として『施術に効果が無いことを施術者自身が証明』していることとなり、同様な条件で『3.改善小』以降だった場合には、途中の何処かで『施術の必要性に疑義』が出ることは認識していただきたい。
月の途中などでそれなりの変化等が合った場合には、症状等を記載する欄に手を抜かずに必要な記載をすることをぜひ実行していただき、自身の施術の正当性の証明に勤めていただきたい。
安全保障鍼灸マッサージ師会
顧問 西崎 斉